積層薄膜界面で発現するスピン機能を活用した省電力メモリ・ロジックデバイス等の開発が精力的に進められている。界面スピン機能は界面内の局所スピン配列に支配されるため、これら次世代デバイスの開発研究においては、界面スピン方向を実空間で直接評価するナノスピン計測技術が不可欠となる。本研究では、スピン偏極走査電子顕微法(スピン偏極SEM)を高度化し、界面の局所スピン分布を実空間で定量分析できる先端スピン計測装置の開発を目的とする。本年度は、前年度製作した超高真空パルスレーザー薄膜堆積装置(PLD))とスピン偏極SEMの機能を統合した複合分析システムを構築し、界面スピンの分析を実際に試みた。まず、PLDの立ち上げと装置間の調整を前年に引き続き行った。特に、真空性能の強化と成膜時構造解析機構の高精度化を重点的に実施した。装置からの漏洩磁場が構造解析機構に干渉して解析精度を低下させることが判明したため、磁場発生源を特定し、装置設計や部材の一部変更、磁気シールド処理等によって問題を解決した。構築したシステムを用いて、強磁性スピン秩序の生成が期待されるヘテロ接合界面の直接分析を試みた。装置の高真空化によって雰囲気の不純物レベルを低減した結果、イメージデータの構成に十分な信号検出感度を確保することに成功した。いずれも強磁性スピン秩序を有しないLaMnO_3およびSrMnO_3で構成したナノ接合の界面を計測したところ、鮮明なスピン分布像の取得に成功した。スピンは界面内でドメインを形成しており、スピン方向は界面に対して平行かつ隣接ドメイン間で反平行であることを明らかにした。これらの結果は、開発した装置が界面のスピン分布を実空間で定量分析可能であることを実証するものである。界面スピン機能デバイスの開発を推進する新技術として期待される。
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