水熱合成法によるPZT薄膜は、高温高圧下の水溶液中での反応を利用するため、不純物の混入が少なく高品質な材料を得ることができ、アニーリングや分極処理が不要、3次元構造物への成膜可能など有利な点を多く持つ。また、水熱合成法によって合成したPZT多結晶は音響インピーダンスが小さく、生体組織や水と近いため、医療用超音波デバイスへの応用に適すると考えられる。これまでの手法では、チタン基板上にPZTの成膜を行っていたが、基板を柔らかいプラスチックのようなものにすることで、前述した低音響インピーダンスという特性をより効果的に応用することができると考えた。そこで、水熱合成法の反応速度向上を目的として開発した超音波アシスト水熱合成法を用いて、柔軟な基板であるエンジニアリングプラスチック(PEEK)基板上へのPZT薄膜を試みた。水熱合成反応によるPZT薄膜の合成では、基板としてチタンを用いる必要があるので、PEEK基板上に電子線真空蒸着法を用いてチタニウム層を蒸着し、さらにその上に水熱合成法でPZTを合成することとした。この際のチタニウムの厚みは非常に薄いため、前述したプラスチックの基板を使用するメリットを損なわない。しかし、一方で約2ミクロン以上のチタン厚がないと、水熱合成反応中にチタンが完全に溶解してしまうことが明らかとなった。得られたPZT薄膜の薄膜表面は、粒径1~3ミクロン程度のPZT結晶が隙間なく生成されていることが観察できた。同条件で、超音波照射を行わなかった場合の薄膜表面には空孔が散見され、超音波照射の効果が再確認された。またこの薄膜のX線回折分析結果により、不純物を全く含まないPZT薄膜が得られていることが示された。この圧電薄膜はフレキシブル基板上に成膜されているために、容易に変形させることが可能であり、今までにない特徴を持っていることが明らかにできた。
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