本研究は論理回路応用へむけたIII-V族高移動度チャネルMOSFETの高駆動能力化を目的として行われ、以下の成果を得た。 高電流動作に必要なキャリア注入能力向上と寄生抵抗低減を目指して、ソース領域の高濃度ドーピングのための有機金属気相成長(MOVPE)法による再成長ソースの形成とこれを用いたデバイス作製プロセスを提案した。実際に再成長ソースを有するInP/InGaAs/InAlAs量子井戸型チャネルMOSFETを作製、その動作を確認した。再成長条件の改善により4×10^<19>cm^<-3>以上の高いキャリア濃度を有するソース領域の形成を達成した。これは現在のIII-V族へのイオン打ち込み法では所達成が困難と考えられる値である。寄生抵抗は再成長を行わなかった場合の25%程度となる0.5Ωmmという値が得られ、更なる改善の余地があるものの再成長プロセスの有効性が示された。 さらにスケーリングによる性能向上を目的として電子ビームリソグラフィーによるチャネル長100nmの再成長MOSFET構造形成と、ゲート容量増加のための高誘電率ゲート絶縁膜として原子層堆積法を用いたAl_2O_3の導入を行い、再成長プロセスとの組み合わせによってドレイン電流1.3A/mm、伝達コンダクタンス0.8S/mmを達成した。このドレイン電流は我々が知る限りInP系の高移動度チャネルを用いたMOSFETとしてはこれまでで最大の値であり、III-V族高移動度チャネルMOSFETの高駆動能力化における高キャリア濃度ソースの重要性を実験的に示した。これらの結果により要求されている高ドレイン電流(2A/mm)の実現への指針を示すことができた。
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