本研究は、高速・低消費電力な次世代LSI技術である、単一磁束量子(SFQ)回路の設計において必要不可欠な、基本要素回路(セル)の集まりであるセルライブラリ構築の自動化を目的としている。平成22年度は、昨年度に続き、信頼性の高いセルライブラリを構築するための設計指針を得るための調査と実験を進めたほか、レイアウト設計の自動化に向け、支援プログラムの開発に着手した。まず、電源電圧を変えることで回路の動作速度と消費電力を調節することができると明らかになったので、設計指針に反映させることを目的とし、テスト回路を試作して歩留まりや電源電圧に対する動作マージンを調査した。その結果、電源電圧を現在の1/10から10倍程度まで変化させても、歩留まりや動作マージンに大きな劣化がないことがわかった。SFQ回路の静的な消費電力は電源電圧に比例するため、回路の低消費電力化に向け有益な指針が得られたと考えるが、一方、セルのレイアウト自動設計の観点からは、実用には微少な抵抗を適切に配置するためのアルゴリズムを工夫する必要がある。この検討は、次年度プログラムの高度化の際に行う予定とした。また、昨年度構築したSFQ回路の評価結果を収集するためのデータベースを活用し、国内の他の研究機関と協力して今年度は約1000件の実験結果を収集した。解析の結果、回路の動作マージンは以前と変わらないものの、今年度の試作では数千接合規模の回路において歩留まりが低下していることがわかった。この結果は、試作を依頼している超電導工学研究所に有益なフィードバックとなると考える。SFQ回路では、信号の分岐など配線要素にも能動素子を含む独自の回路が必要となるため、配線要素となるセルのレイアウトの自動生成を支援するプログラムの開発に着手した。一般的な配線アルゴリズムに、インダクタンス等の回路パラメータを調整する行程を加える指針を作成した。
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