研究概要 |
本年度の主要な研究活動は,チップ内メタ物質の設計・試作とその実測である.本研究では解決すべき第一の問題として,チップ内にメタ物質を構成できるかという点があり,本年度の実測により,60GHz近辺の周波数でメタ物質を構成可能であることが実証された.チップ内メタ物質は電磁界解析に基づいて構造を決定し,配線層5層のCMOS180nmプロセスで試作を行なった.メタ物質の構成要素の基本的な形状としてSRR (Split-Ring Resonator)が挙げられるが,チップ内にSRRを構成するとその大きさから共振周波数が200GHz近辺になってしまい,ミリ波集積回路のターゲットである160GHz近辺ではメタ物質としての挙動を示さない.そこで積層型SRR (Stacked Split-Ring Resonator)を提案し,共振周波数を50GHz以下まで下げることに成功した.提案構造の有効性はネットワークアナライザによる実測でも確認されている.本年度はシミュレーションによる設計結果は国際会議で発表し,実測結果については別の国際会議に採録が決定している.また,本年度の試作ではメタ物質実現に向けての問題点の洗い出しも目的の一つであった.設計・試作を通じて,チップ内ではSRRを構成する配線が細く抵抗が大きいため,損失の大きさが問題になることが分かった.この問題点については平成22年度の目的であるトランジスタによる可変SRRの検討を行なうにあたり,損失の補償機構を検討することで解決を目指す.
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