本研究の目的は、磁気ランダムアクセスメモリ(MRAM)素子の高速磁化反転機構やマイクロインダクタの高周波磁気特性をミクロな観点から解明するために、紫外光源および高速トリガ制御CCDカメラを用いた「80nmの空間分解能と5nsの高速応答」を有する磁気カー効果顕微鏡による「局分解能・高速動磁区観察システム」を構築し、「ナノ磁性ドットの高速磁化反転動作の磁区観察」を実現することである。 21年度は、紫外線領域での光強度が大きな水銀キセノン灯を光源として、365nmおよび248nmの波長フィルタを用いることで、顕微鏡の空間分解能を向上させ、少なくとも200nm~150nm程度の磁区観察空間分解能が得られることを実証した。これは従来の可視光を用いた磁区観察では得ることが不可能な優れた空間分解能である。 また、磁性材料の高速駆動のため、高周波電磁界の伝送の際の反射・減衰等を抑制可能な高周波伝送線路として平面型のコプレーナ線路を設計・作製し、線路上に微細薄膜素子を設置してその磁化過程を磁区観察した。結果として、線路直上150μmの場所において、数100eの磁界強度で磁性薄膜素子を励磁でき、ほぼ設計通りの励磁特性が得られることが分かった。作製した高速励磁用高周波線路を構築した動磁区観察システムに組み込むことで、MRAM素子への記録書き込み動作時における動磁区観察を実現できると考えられ、これは22年度に取り組む予定である。 これらの検討によって、高速・高分解能動磁区観察システムの構築、およびこのシステムの時間分解能、空間分解能の限界に関する知見を得ることができた。
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