研究概要 |
本研究の目的は,産業用ロボットや自動車,航空機などの車両内の制御信号ネットワークを電力線により構築するための電力線通信システムを提案し,その有効性を検証することである.自動車内の制御信号電力線ネットワークでは,低遅延・高信頼な通信が要求される一方で,ドアロック,パワーウィンドウ,ワイパーなどのアクチュエータから生じるインパルス性雑音が通信の信頼性を損なう.平成21年度に,車載電源線の伝送特性および雑音の測定結果から,アクチュエータ駆動時に突発的に生じる高レベルなインパルス性雑音が車載電源線通信の信頼性を大幅に低下させる危険性が高いことを明らかにした.平成22年度では,自動車内のインパルス性雑音をモデル化し,計算機シミュレーションを用いて車載電力線通信における変復調方式を検討した.特に,車載ネットワークシステムにおける低速系の通信規格LINの伝送媒体を車載電力線に置き換えることを目標として,そのシステムの要求条件を明らかにした.低遅延を達成するために,変調方式についてはシンプルな2値シングルキャリア変調方式である2値位相偏移変調(BPSK)方式および2値振幅偏移変調(OOK)方式とし,検波方式についてはBPSKの場合は同期検波および遅延検波,OOKの場合は同期検波および包絡線検波を検討した.その結果,変調方式および検波方式の違いに関わらず,インパルス性雑音の電力が集中しない周波数帯においてもシステムの要求条件を満足できない可能性があることを示した.そこで,アナログリミッタを用いてインパルス性雑音の電力を時間的に削減することを提案し,計算機シミュレーションの結果,リミッタはインパルス性雑音対策として非常に有効であることを明らかにした.結論として,自動利得制御回路および搬送波再生回路が不要なBPSKの遅延検波とハードリミッタの組み合わせが低速系車載電力線通信において有効であることを示した.
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