研究概要 |
所謂「メタマテリアル」は,電磁波に対して負の屈折率を持つなどといった,誘電磁性において特異な性質を示す人工物質を指し,スーパーレンズや透明マントなどを実現するための一原理が発表されて以来,多大な注目を集めている.本研究では,メタマテリアルの高周波デバイスへの適用を容易にするための,新たなシミュレーション手法を開発し,それによって予測されるプロトタイプを作成・実験することで,手法の即効性,新規高周波デバイスの提案を行うことを目的としている。 Lumped Element Finite Difference Time Domain Method(LE-FDTD法)は,ダイオード・トランジスタに代表される非線形素子,抵抗・インダクタ・キャパシタのような線形素子の高周波等価回路を,3次元電磁界解析手法であるFDTD法に組み込んだハイブリッド解析手法であり,正確な等価回路パラメータの同定,正確なモデリングに基づき,実測結果とも良好に一致する結果が得られる.この方法は,本来はミクロに現れるディスクリートデバイス内の諸現象を,マクロな等価回路として取り扱っているため,物理的モデルに基いた擬似マルチスケールシミュレーションと考えることができる. 本年度は,昨年度に開発したシミュレーションツールを3次元メタマテリアル設計に向けた拡張とその効果に関する検討を実施した.昨年度着手したシミュレーション技術をさらに進化させるとともに,新たに明らかとなった解析手法固有の問題を解決し,積層構造に対応するコード開発を行った.また,1~2次元構造のメタマテリアル応用については継続的に実施した. 1次元メタマテリアルの一応用である伝送線路型メタマテリアルによる漏れ波アンテナでは,同一形状の1ユニットを周期的に配列した構造であることから,各ユニットにおける入力に対する放射量,透過量は同一となる.伝送線路型という構造であることから,各ユニットに対する入力は相対的に減少し,結果,ユニット相互で比較した場合の放射量に傾斜が生じ,電磁波の放射方向に制約が生じることになる.今年度はこのことをシミュレーションによって明らかにするとともに,その一改善方法を提案する段階にまで昇華することができた. また,弾性波に対するLE-FDTD法についてもコード開発に着手し,弾性波2次元メタマテリアル実現の可能性を解析的,実験的に示すことに成功した.なお,この成果の一部を含めた報告を雑誌論文に投稿中である.
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