ピンポイント電子スピン共鳴(ESR)法は、局所領域のESRスペクトルを観測する手法であり、ESR画像法などでは取得が困難であった複数の活性酸素種や活性酸素の存在状態などを様々な情報を取得できる特徴がある。この手法の特徴として、電気的な制御によって、測定領域を移動できることにあり、本研究では、ラット程度の小動物を対象とし、生きたままの状態で局所領域の電子スピン共鳴(ESR)を測定できる装置の開発を目的とする。平成21年度の開発・製作した磁場勾配コイルを内蔵したシールドケースおよび小動物に対応したループギャップ共振器を使用して、モデル試料による空間分解能の測定を行った。その結果、6.8mm(z-軸方向)、18mm(x-軸方向)の空間分解能であることが分かった。測定対象としているラットの脳を大きさが約10mmであるため、z-軸方向の空間制御性能は十分であるが、x-軸方法については、改良の必要があると判断される。さらに、z-軸方向について、異なる線形のESRスペクトルを有する試料を、共振器内の異なる位置に置き、それらのスペクトルの分離の可能性について、実験を行った結果、分離可能であることが分かった。すなわちESR画像法では取得が困難であった複数の活性酸素種や活性酸素の存在状態などの様々な情報を取得することがz-軸方法では可能であることが示唆される。最後に、ラットによる動物実験を行い、これまで短寿命で、ESR画像法では測定できなかったスピンプローブ剤の血液脳関門(BBB)の機能性評価を行った結果、これまでBBBは通過しないと考えられてきた試薬が通過することが分かった。今後、生命科学の分野における発展に貢献できることが期待される。
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