研究概要 |
抗原応答性ハイドロゲルを作製し,それを受容膜とした新規の匂いセンサの開発を試みる.従来の匂いセンサは受容レベルでの選択性は高いとはいえず,匂いセンサが広く安全・安心分野に利用されるためには,感度のみならず選択性を大幅に改善する必要がある.抗原応答性ハイドロゲルは,ポリマーに固定された抗体と,同様にポリマーに固定された抗原の結合をマトリックスの架橋点として利用したゲルである.遊離の抗原がハイドロゲル内に存在すると,置換反応により固定化抗体と遊離の抗原が結合する.そのため,架橋点の結合がほどけ膨潤する.したがって,抗原抗体反応がマトリックス自体の変化として表れることになる.開発を試みる匂いセンサは,匂い物質に対する抗体を用いて作製したハイドロゲルを用い,匂い物質の結合による膨潤現象を表面プラズモン共鳴現象測定装置で信号変換するものである.計画の段階では,アクリルアミドをポリマー化して,マトリックスとする予定だったが,発がん性が認められているため取り扱いのしやすい代替物質を検討した.文献調査を行い,低毒性でありアクリルアミドの代替材料として注目されているN-vinylformamide (NVF)をポリマーの出発物質に決定し,マトリックス作製の方針を確定した.NVFに水溶性アゾ重合開始剤を加え,個体状のpoly (N-vinylformamide) (poly (NVF))を得た.poly (NVF)は有機溶媒に不溶であるが,水に易溶であり,得られた個体を精製し,凍結乾燥を行い,poly (NVF)を回収した.今後は,加水分解により,アミノ基を側鎖に持つpoly (vinylamine)を得て,抗体あるいは抗原(抗原の類似物質)を結合し,抗原応答性ハイドロゲルを得て,表面プラズモン共鳴センサで応答特性を計測する予定である.
|