研究概要 |
本研究の目的は,生物ソナーと呼ばれるコウモリが有する高度な超音波センシングの仕組みを解明することを目的としている.本年度はまず(1)獲物を探索・追尾捕獲する際のコウモリのattentionの方向,及び視野に相当するビーム幅の計測を,室内の飛行実験より検討を行った.その結果,(1)獲物が逃避行動を開始する標的距離1m以内まで接近すると,コウモリは超音波パルスの指向性幅を拡大させることを計測により明らかにした.(2)ビーム幅の拡大は,逃避飛行する獲物の移動角度よりも常に大きく,獲物の動きが音響視野内に収まるように調整されていた,(3)超音波パルスの周波数帯域は変化していないことから,ビーム幅の拡大は放射部分である鼻孔やその周辺の鼻葉の形状変化による可能性が考えられる.また(2)複数個体を同時飛行させた際の混信回避行動の分析を室内飛行実験により進めた.その結果,(1)FMコウモリのパルスの音響的特徴を判別分析により検討した結果,単独飛行と2個体飛行時において,明らかな変化は見られなかった.(2)アブラコウモリのFMパルスは,80%以上の個体間の判別が可能であることがわかった.(3)inherentな個体間のパルス形状の違いに最も寄与しているのが,パルスの終端周波数(TF)であった.またambiguous functionの計算結果より,わずか1kHz程度のTFの変化でも,十分パルス間の相関性が脆弱になることがわかった.さらに(3)野生コウモリに対するエコーロケーション行動の分析として,(1)大型マイクロホンアレイの構築により,パルス放射方向の計測が十分な精度で可能なことを,校正実験および解析方法の改良により確認した.(2)シュミレーションにより,コウモリの探索軌道が複数の獲物を捕獲するのに効率的であること,またコウモリが行うtarget rangeの変化(パルス放射間隔より推定)は,獲物探索に効果的な戦略であることを見出した.
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