研究概要 |
アクリル誘電体と乳がん模型を被測定対象物として連続型マイクロ波CTシステムによる測定実験を行った。乳がん模型を内製し,実物の乳房組織および癌組織の比誘電率に近い安価な素材を選定して,その電気定数を実測して確認した。10 GHz帯のマイクロ波を被測定対象物に照射し,反射・散乱・回折による合成波を測定対象物の周囲で観測した。観測波形から振幅分布および位相分布が得られ,FDTD法(有限差分時間領域法)による電磁波伝搬シミュレーションとの比較を行ったところ,実測された振幅・位相分布とシミュレーション結果が非常に良く一致しており,携帯電話の通信技術を応用した安価なCTシステムが実際のCT実験において正確に動作することを確認した。次に,実測データから画像解析を高速に行うためにGPGPUワークステーションを導入した。既存の解析技術の場合,24台のPCクラスターで並列計算しても3次元マイクロ波CT像を得るまでに1ヶ月の計算時間を要する。本研究では近年飛躍的な進化を遂げるGPGPU(一般目的画像処理演算素子)による高速コンピューティング技術を導入し,実際の医療現場において実用的な時間内でマイクロ波CT像再生するべくGPGPU(448コア)とCPU(12コア)を並列処理に組み込む高速計算コードの開発に着手した。CT像解析では3次元の電磁波伝搬シミュレーションと非線形方程式(大規模な複素行列解析)を解くために膨大な計算時間を要するが,その両方に対して並列計算を可能にする既存コードがないので,本研究内で開発している。現在ところ,被測定対象物のCT像(複素誘電率分布)の情報を含む散乱波解を離散化して行列方程式に直し,コーディングする段階に進んでいる。今後はFDTD法による電磁波伝搬シミュレーションを使って本コーディングの動作検証を行う予定である。また,パルスレーダー方式による3次元マイクロ波CTシステムの試作機が完成した。本年度予算でパルス波の時間波形を観測できるサンプリングスコープを導入し,パルス波の送受信回路(パルス幅100psec,最大出力10mW)が完成した。本システム専用の円偏波送受信アンテナを製作し,パルスの空中伝送実験および誘電球・金属球を用いたパルス反射実験を行った。現在のところ,アンテナ素子が持つ強い周波数依存性によって反射パルスに著しい波形歪みが生じており,パルスの飛行時間をまだ正確に測定できていない。今後はアンテナ素子開発によって周波数特性を改善し,観測された受信波形から反射波形と直達波を分離して正確なパルス飛行時間を算出できる信号処理を進めることによってパルスレーダー方式の3次元CT像解析実験を行う予定である。
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