昨年度までの研究では、線形周期システムの安定性解析を念頭に、カルマン正準分解が構成できない特異な事例の紹介、カルマン正準分解が構成できるための必要十分条件の導出、フロケ定理の一般化などの理論研究を行ってきた。本年度は、応用面から問題設定を再確認すべく、線形周期システムが現れる具体例の研究も行った。スイッチングコンバータは半導体素子に起因する非線形性の大きい回路であるが、実用上重要な電流導通モードに限定すると、線形周期システムに帰着される。まず線形周期システムとして具体的な方程式を導出し、これまでに得られた成果が適用できる状況であるか調べた。結論としては、正準分解やフロケ定理に関して特異な状況は出現せず、これまでの問題設定を拡張する動機とはならなかった。しかし、パワーエレクトロニクスの分野で得られた研究成果を調べた所、定常状態での平均電圧やリップル電圧の解析において理論的な考察が不十分であるとの印象を得た。そこで、線形周期システムの知見を用いると、定常状態は安定な周期軌道として定式化されることを指摘した。さらに安定な周期解を逐次近似することにより数式処理が可能であり、平均電圧は0次近似、リップル電圧は1次近似により得られることを示した。これらの結果は、パワーエレクトロニクスの教科書での図的解釈から得られた近似解法に対して数学的な証明を与えるものであり、価値がある。また、寄生要素が入ったシステムに対して、図的解釈に頼ることなく数式できるということは強みであり、応用が期待される。
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