研究概要 |
本研究では,不確かさを有する制御系の解析・設計問題を定式化することであらわれるロバスト半正値計画問題に対する厳密解法の構築と,数値最適化手法を積極的に活用した制御系設計手法の確立を目的としている.本年度は後者の研究課題に精力的に取り組み,とくにロバスト性能を達成する周期時変制御器設計に関して理論と応用の双方から研究を行った.制御の対象となるシステムが時不変システム(動特性が時間的に変化しないシステム)であっても,不確かさに抗して一定の制御性能の達成を保証するロバスト制御器を設計する上では,制御器を周期時変とすることが有効であることが過去の研究において示唆されている.昨年度は,ロバスト周期時変制御器設計問題を過度に保守的にならない形で(必要十分に近い形で)ロバスト半正定値計画問題に帰着させるための制御器の構造の検討を行い,その結果メモリー型周期時変制御器が有効であるという結論を導いている.本年度はメモリーの数を一定とせず,メモリーの数自身も周期時変とするという一般的な設定のもとでこの制御器設計問題を(ロバスト)半正定値計画問題に帰着できることを明らかとした(学会発表第3項).研究代表者は本研究の一部をLAAS-CNRS(France)の研究者と共同で進めており,とくにメモリー型制御器によるロバスト制御手法を人工衛星の軌道制御問題に適用し,高精度なシミュレーションによりその有効性を検証することを試みている(学会発表第2項).人工衛星の軌道制御を考える上では,軌道が周期的であること,また軌道1周に対応する1周期内において細かな制御を要するところとそうでないところがあることから,周期的にメモリー数が変化する周期時変制御器の設計が必要となっている.この応用事例においては解くべきロバスト半正定値計画問題が大規模となるため計算時間の問題が生じるものの,メモリー型ロバスト制御器設計に関する理論の整備は大きく進展した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の主たる研究課題は,ロバスト半正値計画問題に対する厳密解法の構築と,(ロバスト半正定値計画を核とする)数値最適化手法を積極的に活用したロバスト制御系設計理論の確立にある.前者に関しては平成21,22年度の取り組みにおいて,後者に関しては平成22,23年度の取り組みにおいていずれも重要な理論的成果が得られており,論文発表,国際会議における発表も順調に行えている.理論的成果の実システムへの応用に課題が残るが,LAAS-CNRS(France)の研究者との共同研究によってこの課題に対しても進展が得られると期待できる.
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今後の研究の推進方策 |
近年,電力システム,水循環システムといった社会システムや,環境,生物システムに対する制御理論的な解析手法設計手法の構築が大きな研究課題となっている.これらのシステムの多くは,ダイナミクスを記述する状態変数が物理的に非負の値のみを取るものであり,そのため非負システムと呼ばれる.線形非負システムは,(通常の,非負とは限らない)線形システムに比べて非常に特殊な性質を有しており,そのため古くから研究がなされているが,数理計画手法(凸最適化手法)を積極的に利用した解析や設計に関する研究は十分にはなされていない.このような現況において,社会システム,環境システム,生物システムに典型的に見られる大規模結合非負システムの解析・設計手法を確立することは重要な研究課題であると考えられる.この研究課題に対して,基盤となる重要な結果が昨年度の取り組みにより既に得られており(学会発表第4項),本年度は引き続きこの研究課題に焦点を当てて研究を遂行する.
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