研究概要 |
本研究の目的は,利己的なプレイヤーからなる複数集団間の相互作用により生じる社会問題を分析し,問題解決に導く制御手法を確立することである.さらにその結果を,異なる送信元と送信先でデータを送信する複数種類のフローのルーティングに適用することで,利己的に振る舞うホスト間の利益を調停し,ネットワーク資源をより有効に活用するための制御手法を確立することを目指す.本年度は,統制者が税と補助金を課すことで複数集団の相互作用に介入し,全集団を目標状態に導こうとする複数集団進化ゲームモデルを提案し,その性質を調べた. 複数集団のゲームのモデルとして,各プレイヤーの利得が,自身の戦略と他の集団の集団状態に加えて,自身の属する集団の状態にも依存する状況を考える.この複数集団ゲームに対し,政府が集団毎に異なる税と補助金を課すことで全集団を目標状態に導こうとする以下の2つのモデルを提案した.集団毎に異なる(1)一定額の税,(2)一定の税率の税を各集団内のプレイヤー全員に一律に課すモデルである.両モデルにおいて,政府は各集団に交付する補助金の総額と各集団の目標状態とを決定する.補助金は,目標状態に依存した割合で各戦略をとるプレイヤーに配分され,同じ戦略をとるプレイヤーで等分割される.これらの複数集団ゲームにおいて,各集団の戦略分布の変化を表す税と補助金を課した複数集団レプリケータダイナミクスをそれぞれ定式化し,目標状態に対応する平衡点を局所・大域漸近安定とするのに必要な税額・税率と補助金の条件を明らかにした. また,複数のソース-シンクを持つネットワークでの利己的ルーティングへの応用に向けた準備として,すでに提案した単一のソース-シンクを持つネットワークにおいて,税を課すことで伝送遅延が最小となるフローを安定化する手法について,具体的なアルゴリズムを与え,ネットワークシミュレータを用いてその有効性を示した.
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