近い将来の実現が検討されている月探査計画において、無人で広域の探査を行なう探査ローバーの開発が急務とされている。本研究では、探査ローバーへの実践的貢献を目的に、1)車輪と月面地盤との相互作用に関する力学モデルを構築し、2)沈下やすべりを起こしにくい車輪構造を提案するとともに、3)十分な走行性を確保するためのフィードバック制御法を開発し、そのシステムを次期月探査計画(SELENE-2)に提案しようとするものである。 本年度(平成21年度)に実施した研究の主な成果は以下の通りである。 ・ 月面土(レゴリス)の化学組成や物理特性を模擬した人工模擬土を用いて、月面を想定した超低拘束圧条件下での三軸圧縮試験等を行なった。その結果、月面土には強度定数や変形定数に強い応力依存性がみられ、また、地上の標準的な砂試料に較べて大きなダイレイタンシー挙動を示す可能性のあることが明らかとなった。 ・ 低重力環境下における車輪の走破性について実験的研究を行い、重力が走破性に及ぼす影響とメカニズムを明らかにした。検討の結果、月面などの低重力環境下では、地盤内の流動性が増加し、トラクションが低下して走行性が悪化することなどが判明した。 ・ 車輪下に作用する応力分布(地盤反力分布)を知ることは走行の「状態(スリップ率・沈下量等)」のリアルタイムモニタリングやすべりを起こしにくい車輪を開発する上で重要なこととなる。ここでは、月探査実現時のローバー実装を前提にしたシンプルな構造による土圧分布計測システムの開発検討を行なった。 ・ 一輪の車輪走行模型装置を用いて様々な地盤・車輪走行の条件のもとで走行実験を行い、車輪のスリップ率予測モデルを構築した。このスリップ率モデルは、その学術的価値のみならず、より良い状態の走行あるいは状態維持を自律的に実現するためのフィードバック制御モデルとして応用される。
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