研究概要 |
本研究は,河川流量の年間の累積頻度分布である"流況曲線の形状"と流域の気候・地理条件の包括的関係を整理し,気候・地理条件から流況曲線形状を推定する方法を確立することを目的としながら,その副産物として,全日本地下水涵養ポテンシャルマップの作成を行うものである.昨年度までに,流況曲線形状と流域の気候・地理条件の関係を日本の山地流域を対象として検討し,日本の山地河川の流況を流域の気候・地理条件から推定する方法を確立した.さらに,"渇水比流量が大きい地域では地下水涵養ポテンシャルが大きい"と仮定し,渇水比流量を増加させる地理条件を割り出し,それらの条件を多く満たす場所を地下水涵養ポテンシャルが大きい地域とし,それを全日本地下水涵養ポテンシャルマップとしてまとめた.ただし,これらの手法や知見の適用範囲は日本と気候条件が似ている地域に限定されていた. そこで本年度は,日本とは気候条件が大きく異なるオーストラリアの流域において,流況曲線形状と流域の気候条件の関係を検討した(横尾,2011,小松・横尾,2012).その結果,流況曲線形状は流域の気候を特徴づける乾燥指数や季節性指数と明確な相関があることが分かった.これにより,流域の乾燥指数や季節性指数から流況曲線形状を大まかに推定できる可能性が出てきた.また,全日本地下水涵養ポテンシャルマップを,時々刻々と変化する気象条件に対応して変化する動的な地下水涵養マップに発展させるため,流域の貯留変動量の推定法の検討に着手した(小林・横尾,2012,横尾ら,2012).この手法はKirchner(2009)の手法の日本における適用性を検討するものである.その結果,毎時の流域の貯留量変化を時々刻々と推定できる可能性が確認された.これにより,日本の山地流域における渇水時の水資源管理や降雨時の土砂災害予測に本研究の成果を応用する道が開けた.
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