研究概要 |
本研究課題は,小流域での土砂流出量の実態把握,および,流域降雨の位置エネルギー(土砂流出ポテンシャル)を起源とし河床へ作用する水流の仕事率(ストリームパワー)のうち土砂流送として消費される効率を調べ,ここから小流域の土砂流出特性を見出そうとするものである. 今年度は,H22に揖斐川流域を通過した台風9号による出水前後の砂防堰堤の堆砂形状および粒度分布変化の観測結果に基づいて水理計算を行い,現地で計測された平均粒径と水理計算から推定された移動限界粒径との比較を行った.出水ピーク流量は,砂防堰堤に残された洪水痕跡線によって予想された越流水深から算定した.対象河道は山間地の急勾配水路であるため,常射流が混在する1次元水位計算を実施した.そして,その条件下で流送されうる移動限界粒径を求めるとともに,実際に計測された粒度分布と比較した.その結果,計算された移動限界粒径は断面によって変動が大きい反面,計測された粒度分布は縦断的に滑らかに変位をしている事が分かった.これは,単に掃流力のみによる評価と,上流側から大きい粒子から順に堆積する実際の現象との相異が現れたと考えられる.なお,計測された平均粒径は,移動限界粒径の変動のほぼ中央値付近に分布していた.この対象河道は蛇行を伴っていて流路が右岸側へ偏っているが,これは出水後半の水位低下時に流路が右に寄りに形成されたと考えられる.その証拠として,掃流砂と考えられる大きさの粒子は横断方向に均一に分布していた事が挙げられる.すなわち,水位が低下した後の細粒成分の堆積が最終的な粒度分布の違いを生み出したと推察できる.このことから,観測時の粒度分布から流況(ストリームパワー),或いは,より長期的指標である土砂流出ポテンシャルパワーを算定することは事実を見誤る危険性があり,対象とする粒径が運搬・堆積する過程について慎重に考察することが重要であると言える.
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