ドライバーは、生活道路において、常に速度メーターを見ているわけではなく、その道路の状況に合わせ、感覚的に妥当だと感じる速度で走行している。この感覚的に妥当だと感じる速度は、その街路空間の「しつらえ」に大きく依存していると考えられ、その「しつらえ」がドライバーに与える影響について明らかにすることができれば、逆に、ドライバーが感覚的に妥当だと感じる速度をコントロールできる可能性が見いだせる。 そこで、本研究では、岡山県内の54路線における速度調査を実施し、街路の空間要素(道路幅員、歩道幅員、沿道住宅高さ、中央線の有無など)がその街路を走行する自動車の走行速度にどのように影響を及ぼしているのかを統計的な手法により検討した。また、街路の空間要素を説明変数、自動車走行速度を目的変数とするモデル化を行い、精度の高いモデルの作成に成功した。 その結果、車道幅員、区間長、中央線(黄色実線)、低木植樹帯の存在が平均速度を増加させる要素であり、一時停止、左側沿道高層側壁密度が平均速度を減少させる要素であることが明らかになった。また、自動車走行速度の変動係数と街路空間要素の関係を分析した結果、中央線(黄色実線)や植樹帯は自動車走行速度のばらつきを抑制する要素であり、一時停止の存在や、進行方向左側の沿道高層建物の側壁密度は自動車走行速度のばらつきを促進する要素であることを明らかにした。 この結果を街路整備に援用することにより、これまでの交通安全対策でとられてきたような、道路の大規模な改修を伴う強制的に自動車の速度を低減させる手法とは異なり、ドライバーが無意識のうちに安全な速度で走る街路空間の創出が安価に実現可能になると考えられる。
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