本研究は、ロービジョン者のための旅客施設における視環境整備に係る指針を提案することを目的としている。ロービジョン者の移動問題を考える上では、その「見え方」を考慮する必要がある。しかし、ロービジョン者の歩行環境整備全般にわたって、視覚および他の感覚機能からどのような情報を入手して歩行しているのかは十分に把握できていない。本年度は、ロービジョン者の中でも特に外部情報を得ることが困難である低視力者(視力0.1以下)を対象として、低視力であっても階段の段差や段数の視認性を向上させるために何が重要なのか検討した。そのために、環境側として、階段を照らす照度と、階段の踏面と段鼻の明度差を変化させ、個人の属性として、低視力擬似体験ゴーグルにより、視力を変化させた。視力は、0.1用、0.05用、白内障用の3種類のレンズを使用し、照度は、ロービジョン者の歩行が困難と考えられる低照度(321x、161x、3.71x)を設定し、段鼻と路面の輝度比は約1、約3、約8の3条件を設定した。 本年度得られた成果を以下に示す。 (1)階差の視認性を向上させるための要因のうちの視力、照度、明度に相互作用はなく、視力が最も影響していることが分かった。 (2)これまでの既往研究では、路面と段鼻の輝度比が重視されてきたが、低照度化においては、路面と段鼻の輝度比よりも、照度が影響していることがわかった。 (2)照度に関しては、161xと3.71xでは、照度の違いによって把握可能な段数に有意な違いが求められる一方、161xと321xとの間では、有意な違いが求められなかった。そのため、本実験における照度の階級では、151x程度を確保すれば、低視力者のロービジョン者においても、ある程度視認可能になることがわかった。
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