本研究は、質量比が小さくても優れた共振応答低減効果を持つTMDにおいて、従来あまり効果が期待できなかった過渡応答初期の制振効果を向上させることを目的として、TMDに初期変位を導入するという簡単な機構を持つ新しいセミアクティブTMDの提案である。過渡応答初期の制振効果を向上させることにより、地震動やその他さまざまな外力に対するTMDの適用範囲の拡大を図ることを目的としている。 本年度は、初期変位付与型セミアクティブTMDに関する研究の第一段階として、数値解析的手法を用いて基礎的な検討を行い、初期変位の大きさや各種パラメーターの設定などの基本となる設計式を提案した。 具体的には以下に示す。 1. 初期変位の設計式の提案 初期変位付与型セミアクティブTMDの設計パラメーターは、(1)初期変位の向きと大きさ、(2)同調比、(3)減衰比の3つがある。(2)同調比と(3)減衰比に関しては、調和地盤振動最適化パラメーターを用いている。1自由度の主振動系モデルを用いたインパルス応答を数値解析により検討した結果、TMDを設置することにより生じる固有振動数の近接した2つの振動モードが時刻歴で重畳することにより生じる"うなり"の包絡線の位相が初期の応答に与える影響が大きく、初期変位の大きさの設定により包絡線の位相をコントロールすることができることが分かった。そこで本研究では、1自由度系のインパルス応答解析結果に基づいて、初期変位の設計式を一般の建築構造物にも適用可能な形で提案した。 2. 地震動に対する制振効果の確認 提案した設計式を用いて、通常のTMDでは明確な効果が現れない衝撃的な地震力であるJMA Kobe 1995 NS波を1自由度系モデルに与えて検討した結果、初期変位解放直後の大きな制振効果の向上を確認することができた。 3. モデル実験計画の作成 来年度に実施する予定の平板モデル実験のための実験計画を数値解析手法を用いて作成した。
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