本研究は、大都市の都心部に存在する公共住宅ストックの今後のあり方を検討するために、1970~80年代に実施された旧日本住宅公団の市街地住宅の「10年後譲渡」に着目し、その事後評価を試みるものである。「10年後譲渡」は限定的に実施された事例ではあるものの、譲渡後の建築空間と居住世帯の変容過程を記述・分析することは、公共住宅が民間に譲渡された際の諸問題を具体的に検証できるという点で意義がある。今年度は1960~80年代の新聞報道記事を検索し、公団史等の記述内容と照らして譲渡に至る経緯を整理した。また、譲渡の影響を評価する軸を設定するために、公共住宅の譲渡にかかわる問題のレビューをおこない、現在において検証されるべき論点を抽出した。その作業と並行して、譲渡後の変容を明らかにする際の出発点として譲渡された公団市街地住宅の名称および戸数を特定し、所在地を1960~70年代の住宅地図に遡って確認した。その結果、1971年度から1983年度までに4大都市圏の都心部で45住宅、1468戸の譲渡が確認された。現況をみると、45住宅のうち20住宅は建替えられることなく建物が維持されていることが明らかになった。ただ、その場合も業務・商業機能に転用されるなど居住機能は失われていることが多い。来年度は譲渡後の建築空間の変容および居住世帯の変動について権利関係を分析軸に加えてクロス分析をおこなう。そして居住の継続性など譲渡時に懸念されていた問題の実際の状況を明らかにする。さらに変容過程を類型化し、譲渡後の変化に影響を与えた要因を考察する予定である。
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