公団市街地住宅と同様に借地に建設された店舗付賃貸共同住宅は公営住宅や公社住宅にも存在する。 今年度は調査対象地を福岡県内と定め、県営と県公社の住宅を対象として民間への譲渡の状況を明らかにした。県営住宅では、戦後復興期に建設された2団地において、店舗経営者でもある複数の土地所有者に対して階段室ごとにタテ割りの譲渡がされていた。建物の老朽化や地代の上昇に対応できないことが譲渡の理由であったが、うち1団地は現存している。公社住宅の譲渡は、住宅金融公庫融資の償還を終えた際に住宅部分を譲渡するとの覚書に則った団地がある一方、覚書がなく土地所有者や居住者からの要望による団地も存在した。1970年代末に払下げが検討された10団地のうち、実際に公社から譲渡された5事例を整理すると、(1)土地所有者である個人または法人に全住戸一括で譲渡された団地が2事例、(2)居住者個人に戸別に譲渡された団地が2事例、(3)店舗経営者の組合に全住戸一括で譲渡された団地が1事例であった。このように譲渡先は多様であるが、第三者への譲渡は確認されなかった。譲渡先の属性は個人・法人・組合の3種類、譲渡の形態は戸別と一括の2種類に類型化できる。現況については、上記(1)は業務ビルもしくは賃貸マンションに建て替えられていたが、(2)と(3)は当初の建物が維持されていた。研究開始当初の仮説は、譲渡後に現存する建物は少ないことを前提として、居住の継続性の観点から問題が生じた類型を見出すことを想定していた。しかし、昨年度の成果もあわせてふまえると、今日まで維持されてきたストックの条件や住環境の運営方法を解明することも、もう一方の研究課題として浮かび上がった。今年度得られた仮説的類型をもとに他都市での調査を進め、比較検討することが今後の課題である。
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