本研究では、在宅療養支援診療所に認定された屋久島の自治体診療所の取り組みを通じて、不採算になりやすい僻地や過疎地にある自治体診療所の黒字運営の要因と、高齢者の地域居住の継続を可能にする医療・福祉の連携による支援体制の構築手法を明らかにすることを目的とする。本研究は、(1)高齢化率が40%を超える集落が点在する地域を診療圏域としていること、(2)自治体診療所の黒字運営を実現し、高齢者の地域居住の継続のため集落内の福祉施設と連携が取れていること、(3)最寄りの他の医療機関と15km以上離れており、地域の医療・福祉の相互の連携体制をより明確に把握しやすいことの3点を特徴とする屋久島町栗生診療所を対象とし、医療の提供圏域と地域住民の生活圏域に着眼した上で、地域施設計画に医療経済の視点を合わせつつ分析を試みることに学術的特色がある。1年目にあたる2009年度は、まず現医師が着任した1996年以降の診療圏域や診療内容、収支状況など、屋久島町栗生診療所の基本データの収集を行った。また、2009年8月下旬には診療所が立地する栗生集落の住民に世帯構成、生活・交流の状況、医療・福祉の利用状況等に関する悉皆アンケート調査を行い、対象地域の実状と問題点を把握した。その上で、医療・福祉施設の利用者・職員ならびに在宅高齢者を抱える世帯にインタビュー調査を実施し、地域居住の意義を医療・福祉の連携による可能性と限界と併せて多角的に考察した。今後はいくつかの学会等にて調査報告を発表すると同時に、学会誌への投稿を行う予定である。
|