本年度は、終末期の入居者の個室と他の入居者の過ごす場所との空間的関係や、スタッフの介護動線、死後の対応といった、ターミナル期の入居者の暮らしやケアを支える空間計画の知見を明らかにした。調査は、熊本県下のグループホーム(以下、GH)を対象に、ターミナルケアの実践経験の豊富な事例を対象に、ヒアリング調査、及び、スタッフのケアや入居者の過ごし方を把握することを目的とした観察調査を行った(2010年12月~2011年3月)。研究成果は下記の通りである。 1)ターミナルケアの環境:GHを「医療の場」として捉えるのではなく、在宅での「死」を念頭においた「生活の場」のケアの体制・環境が求められる。2)個室環境:終末期入居者の暮らしの中心となる「看取り部屋」の計画は、他の入居者の居場所となる共用空間との開放性を確保し、介助等で頻回に利用するトイレ・浴室までの動線周りに配置することにより、他の入居者の暮らしを阻害することなく、柔軟かつきめ細やかなケアが可能となる。また、終末期の入居者にとっても、自分の個室に居ながらにして、GHの日常の雰囲気や賑わいを享受する事に繋がっている。3)ターミナルケアと家族:ターミナルケアの終盤においては、家族の付き添いが頻繁に行われ、家族の泊まり・休息の場を考える必要性が生まれる。その際に、主要な居間・食堂以外の共用空間を「看取り部屋」廻りに計画することで、看取る入居者の存在を確認しつつも、ゆっくりと休息が取れる場として活用可能となる。4)死後の対応と空間:死後の処置や見送り・仮通夜は、個室で行われている場合が多く、その際に、個室と隣り合う場所に共用空間を計画することにより、より落ち着いた環境での見送り・仮通夜が可能となる。出棺の際は、玄関までの動線と、居間・食堂といった空間とが重なっている空間構成の場合、「生活の場」を崩す状況が生まれており、「出棺動線」と共用空間との構成の仕方も計画の際には考慮に入れる必要がある。
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