当該年度の研究実施計画は、概ね計画通り実行できた。以下、具体的に記載する。 1. アンケート調査について:全国の特別養護老人ホームを無作為に50%抽出し、エレベータ利用避難の実施状況や職員の意識、施設入所者の移動能力、施設の火災安全に関するアンケート調査を実施・完了し単純集計を行った。その結果、施設職員からは入所者の火災時避難にエレベータ利用を期待する回答が多く、また、期待できる効果として、避難時の安全性向上、入所者と介助者双方の負担軽減を挙げており、期待の大きさがうかがえた。エレベータ利用避難に関して、自力避難困難な入所者が多く滞在する施設に対する全国規模の調査としては前例が無く、今回、期待の大きさが抽出できたことに大きな意義がある。同時に、エレベータの安全面・信頼性への不安の回答もあり、課題解決の方向性の示唆が得られた点は非常に重要であった。なお、病院と消防に対するアンケート調査は平成22年度の実施とした。 2. エレベータ利用避難実験について:避難方法を検討した結果、車いすに乗車した状態で全介助(乗車者は車いすを操作しない)によるエレベータ利用避難実験を実施し、必要なデータの収集を完了した。実験は、兵庫県社会福祉事業団が運営する自立生活訓練センターにて実施し、主に所要時間の計測、心拍計を用いた車いす搬送者の介助負担の定量的把握を行った。同時に、実験後に介助役にヒアリングも実施した。その結果、エレベータの操作方法に習熟することや開延長ボタンが必須であることなどエレベータ操作に関する課題、介助者の心拍数が搬送中に非常に高くなり負担が大きくなるなど人的な課題が得られ、本研究で最終的な目的としている、施設の避難計画全体の中でのエレベータ利用避難の位置づけを考えるうえで、非常に重要なデータが得られた。
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