平成22年度の科研費の成果としては、まず〔学会発表〕からみていくと、9月に富山大学で行われた日本建築学会の大会における下記の発表が挙げられる。この発表では、セルリオの建築書に描かれたイオニア式戸口の渦巻き装飾が従来とは異なる配置であることに着目し、その構造的役割と装飾的役割とを明らかにした。この原稿を執筆していたときには気づいていなかったが、実はこの装飾部材は15世紀後半のナポリにも見られるものであり、セルリオが最初に採用したのではなかった。それゆえ、この原稿を補足するものとして、後に「ナポリのパラッツォ・カラーファにおけるイオニア式戸口について」と題する原稿を執筆した。この原稿は、今年8月に早稲田大学で行われる日本建築学会大会で発表するためのもので、先日採用が決定された。 次に〔雑誌論文〕については、建築史学会編集委員会から依頼された「学会展望」がある。現在イタリア・ルネサンス建築史の研究がどこまで進んでいるのかという研究史の説明であり、建築書やオーダーを中心に論じたので、セルリオについても多くのページが割かれている。また、同学会から依頼された「書評」については、セルリオが影響を及ぼしたパラーディオについての研究書であり、本研究においても重要な参考文献のひとつとして挙げられるものである。 最後に〔図書〕について、平成22年度の成果ではないので下には記さなかったが、飛ヶ谷潤一郎「ローマの盛期ルネサンス建築」『イタリア文化事典』(丸善2011年出版予定、共著)を挙げておく。セルリオの建築書には、ブラマンテやラファエッロの建築が古代建築と同格と見なされて掲載されており、セルリオに大きな影響を与えたものである。
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