平成21~24 年度の科研費の成果としては、まず〔学会発表〕からみていくと、毎年行われる日本建築学会の大会における下記の5つの発表が挙げられる。第一の「セルリオの建築書『第四書』の聖堂ファサード(c. 54r)についてという発表では、セルリオの建築書に描かれた聖堂ファサードの第二層両脇に設けられた「翼」と呼ばれる部材に着目し、その構造的役割と装飾的役割とを明らかにした。この「翼」と類似した渦巻き形の部材は、同建築書の戸口両脇にも設けられており、これについて第二の「セルリオのイオニア式戸口の解釈:開口部周辺の渦巻き装飾に着目して」および第三の「ナポリのパラッツォ・カラーファにおけるイオニア式戸口について」という発表を行った。第四の「アックアヴィーヴァ・デッレ・フォンティ聖堂ファサードについて」も第一の発表と関連する聖堂ファサードについての考察である。そして第五の「トマールのクリスト修道院大回廊立面とその性格について」という発表では、セルリオのファサードの影響がみられる修道院回廊の立面についての考察である。 次に〔図書〕については、鈴木博之先生献呈論文集刊行会編『建築史攷』に収められた下記の論文が挙げられる。この論文は退職記念論文として編集委員会から依頼されたものではあるけれども、二人の審査員による査読付論文である。この論文ではセルリオの建築書のドームに着目し、古代建築のドームとの比較検討を試みた。 なお〔雑誌論文〕については、建築史学会編集委員会から依頼された「学会展望:イタリア・ルネサンス建築史 建築書やオーダーに関する研究を中心に」があげられる。現在イタリア・ルネサンス建築史の研究がどこまで進んでいるのかという研究史の説明であり、建築書やオーダーを中心に論じたので、セルリオについても多くのページが割かれている。
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