初年度である2009年度は、歴史的な港湾都市である雷州の形成過程を空間的側面から明らかにすることを目的として、文献調査を進めるとともに現地調査を実施した。現地調査では、入手した衛星写真をもとに住宅や商業施設、宗教施設等の建築物のみならず、井戸や祠等の都市空間を構成する要素を含め、現存する遺構の状況を徹底的に調べた。この成果を基礎に文献史料から得られる歴史的な情報も盛り込みながら、現在、雷州の地図を作成しつつあるが、都市図の類の資料がきわめて少ない雷州において、来年度の調査を効果的に進めるために、きわめて有効なものとなるといえる。同時に、現地では住宅地の空間構成を明らかにすること主眼を置き、7例の中庭型住宅と3例の宗教施設について、詳細な実測及び聞き取り調査を行った。雷州では、明代に城壁内が「坊」という単位で分けられるが、坊がどのような都市空間をかたちつくっていたのかが明らかになりつつある。また、実測調査を行った1例の住宅は、清末に貿易業で財を成した人物を排出した家系をもっており、今後、関連する史料調査を充実させ、海域を通じてどのようなネットワークが築き上げられていたのかを明らかにする予定である。来年度は、さらに住宅地の事例を増やすとともに、商業地の詳細な調査を行うことで、前近代から近代へ至る雷州の都市空間の変容と再編の過程を明らかにしていく。また、フランスの租借地が置かれた湛江に関する文献史料もいくつか蒐集しており、調査準備を進めている段階である。なお、2009年度の成果は、日本民俗建築学会の大会(2010年5月)において、口頭発表することを予定している。
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