本研究の目的は、大航海時代から20世紀中葉にかけての華南海域、すなわち中国の福建省ならびに広東省の沿岸部を対象として、海域を通じた様々な交流を視野に入れながら、個々の沿海都市の成立・変容・再編の過程を明らかにするとともに、空間形成に見られる都市相互の影響を総体的に解明しようとすることにある。本研究の期間内を通じて、華南海域において前近代から近代にかけて中国の港湾都市として機能してきた、広東省の西部に位置する雷州・湛江の調査研究を重点的に進めた。本年度は、雷州における住宅地の空間構成の解明に主眼を置いた前年度に引き続き、商業地の空間構成を明らかにすることを主な目的として現地調査を実施した。現地調査では、都市形成に関連する文献史料の蒐集を行うとともに、雷州城内の歴史的な商業街の一つである曲街に焦点を当て、8例の店舗併用住居と4例の宗教施設について、実測および聞き取り調査を行った。その結果、曲街は民国期に雷州の幹線道路として街路の拡幅がなされ、街路沿いの建物には騎楼が付設されたこと、そして騎楼の整備は、街路の拡幅部分に該当する土地所有者が土地を提供し、各戸が街路に面した部分に騎楼を建設したこと、また宗教施設も同様に、街路拡幅に伴う改築がなされたことなどが明らかになった。華南海域の沿海都市の多くには、民国期に建設された騎楼が広く分布しているが、騎楼の建設方法には地域性が見られることを示唆している。
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