研究概要 |
本研究の目的は,透過電子顕微鏡(TEM)に付随する電子線エネルギー損失分光(EELS)に電子線のチャネリング効果を利用した,局所領域でのサイト選択的電子状態解析を確立し,複数の機能サイトをもつ磁性材料解析に応用することである. 前年度までに整備した基礎技術を用いて,価数分布が明らかにされていない遷移金属スピネル酸化物MnFe_2O_4の遷移金属のサイトごとの価数を調べた.この物質はスピネル構造をもち,遷移金属は酸素4配位および6配位のTおよび0サイトを占有する.電子チャネリング効果によりサイトごとに分離したMnおよびFeのスペクトル,その第一原理計算から,Mnは6配位サイトで+2と+3価の価数混合状態にあることが示された.一方,Feのスペクトル形状は+3価のものに類似していた.電荷中性条件から,一部のFeは+4価をとると予想されるが,本実験ではエネルギー分解能が不足しており未確認である. 本分析で問題となるのは,サイトごとのスペクトルに統計分離する際の一意性の無さである.この点はEDXを用いたサイトごとの元素分析と組み合わせることで,今後大きく改善されるものである.加えて,理論面での支援をいただいていたウプサラ大のJan Rusz博士を訪問し,同博士と申請者の所属研究グループの間でSTINT(スウェーデン国際共同研究教育助成)に平成23年度採用されたことは,今後の発展を支えるものとして収穫である.
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