水素吸蔵合金は水素貯蔵材料に加えて、水素透過膜やニッケル-水素電池の負極材料など水素エネルギー材料に関連したさまざまな分野で応用が期待されている物質である。水素吸蔵合金の水素吸蔵放出メカニズムについて簡単に述べると、水素吸蔵時では、水素分子が合金表面で単体水素に解離した後、金属格子間を拡散し、ある場所で金属-水素結合を形成することで水素化物とたって安定化する。一方、水素放出時では、金属-水素結合を切断した単体水素が金属格子間を拡散し、合金表面で再び水素分子となって放出される。しかしながら、水素吸蔵合金には実用上幾つかの問題点が残されている。例えば、(1)水素を可逆的に吸蔵放出できない"死蔵水素"の存在と(2)水素を効率良く吸蔵させるための合金表面の活性化処理法の向上が挙げられる。 そこで本研究では、従来の圧力-成分-温度測定(PCT測定)に加えて、水素に関する構造・ダイナミクス研究で驚異的な威力を発揮する中性子散乱手法を最大限に利用することで、主にTi系BCC水素吸蔵合金の水素吸蔵放出時のバルク/表面構造、水素の拡散挙動および格子振動を明らかにし、死蔵水素の軽減策と新しい活性化処理法について提案することを目的とした。平成21年度は、Ti系BCC水素吸蔵合金やMg系水素吸蔵合金を対象とした中性子回折実験および中性子小角散乱実験を行い、水素吸蔵時および水素放出時(死蔵水素を含む)の静的構造について詳細に調べた。特に、中性子小角散乱実験では軽水素(H)/重水素(D)を使用するコントラスト変化法を本系に採用し、水素吸蔵過程における水素化物の成長の様子をナノスケールレベルで観測することに成功した。また、表面構造に関する研究を行うためTi系BCC水素吸蔵合金の薄膜試料を作製し、反射率測定の予備実験を行った。
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