本研究の全体構想は、ワイドギャップ半導体であるダイヤモンドライクカーボン(DLC)薄膜中にシリコン(Si)ナノ粒子を分散させた新規3次元ナノ構造を開発し、これを用いた電流注入による次世代の環境調和型光デバイスを創製することである。DLCはsp^3結合炭素を主成分とする機械的強度および化学的安定性に優れた非晶質炭素膜であり、最大4eV程度のバンドギャップをもつ半導体材料である。また、Siナノ粒子は量子サイズ効果により、近赤外から青色まで波長を変えて室温で発光させることができる。本研究では、発光波長の精密制御のためにプラズマ化学気相成長法を用いて粒径が精度よく制御されたSiナノ粒子をカーボン薄膜中に高密度に集積化し、その発光特性を明らかにすることを目的とする。 本研究は、(1)Si微粒子のサイズおよび構造制御法の開発、(2)Si微粒子のカーボン薄膜への分散技術の開発、および(3)Si微粒子を分散させた光機能性炭素系薄膜の発光特性の評価-からなる。平成22年度は研究課題(1)、(2)を中心に実施し、(3)についても研究に着手した。微粒子含有薄膜の作製には、モノメチルシランなどの有機シランおよびメタン、希釈ガスにはアルゴンまたは水素を用いた。有機シランを導入したときおよび基板負バイアスを印加したときのみ球状微粒子が形成されることを確認した。微粒子のサイズ、密度の成膜パラメータ依存性について詳細に調べた結果、以下のことがわかった。成膜圧力または基板温度の増加に伴い微粒子サイズが減少し、粒径分布が狭くなる。成膜圧力を増加させたり、希釈ガスにアルゴンを用いることで、微粒子密度は増加する。また、バイアス印加時間などの基板バイアスパラメータにより粒径および微粒子密度が制御可能であることを見出した。本研究により、無害な半導体材料を利用した次世代型光デバイスを創出するための新規プロセス技術に関する重要な知見を得た。
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