研究課題
MOD原料を用いた化学的溶液(CSD)法により、Pb(Mg_<1/3>Nb_<2/3>)03(PMN)薄膜をSrTiO_3(001)単結晶基板上に成膜し、主に001配向した薄膜を作製した。ポストアニール温度が高いほど結晶性の高いPMN相が得られたが、同時に熱分解によるパイロクロア相の生成を伴った。本研究では、特に、ペロブスカイト型PMN相の領域に着目した。得られた薄膜をイオンミリング法によって電子顕微鏡観察用に薄片化し、液体窒素による試料冷却と低エネルギーArイオンビームを併用し試料ダメージを抑制した。収差補正高分解能透過型電子顕微鏡(Cs-HRTEM)法により、基板[110]方向からPMNの原子分解能観察を行った。負の球面収差係数に調整し、金属イオンだけでなく酸素イオンを含めた結晶構造像の撮影に成功した。[110]からの投影によりPbカラムとTi-Oカラムに分離できるため元素の識別も可能であった。得られた構造像より、位置によって単位格子が大きく変調を受け、結晶面が不規則に波打っている様子が明らかになり、単純なペロブスカイト構造のPbTiO_3と異なって原子変位が起きていることを直視することに成功した。一方、比較のためにPbTiO_3/SrTiO_3薄膜についてもCs-HRTEM観察を行い、酸素変位の直視観察からドメインの極性判定、90°ドメイン境界内部の詳細な原子変位場の解明に成功した。またく幾何学的位相解析により90°ドメインとミスフィット転位間の歪みマッピングにより、弾性相互作用を定量的に視覚化することに成功した。これらの成果は、強誘電体におけるマクロな極性領域(ドメイン)と同様に、ナノスケールの極性ナノ領域(PNR)についても歪み場の観点から、ナノスケールで視覚化できることを明らかにしたものであり、従来その実体が十分に解明されてこなかったPNRの構造の解明へのブレークスルーとなり得る。
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