研究概要 |
H21年度は、高強度鋼に用いられる鉄鋼材料のマルテンサイト組織の組織サイズ支配因子を解明するために、マルテンサイト変態に伴う母相の塑性変形に注目し,組成勾配を有する試料において生成するマルテンサイト組織を調べることで,母相の塑性変形のし易さがマルテンサイト組織に及ぼす影響を調べた.更に走査型電子顕微鏡での電子線後方散乱回折法を用いた母相オーステナイト中の局所・弾塑性歪測定法および、マルテンサイト方位からの母相オーステナイト逆計算法を構築した。 (1)FellNi,Fe-15Ni,Fe-23Ni合金に浸炭処理を施し,表面から内部へ炭素濃度の異なる試料におけるマルテンサイト組織を観察したところ,炭素を含んでいない内部では、ラスマルテンサイト組織を構成するブロックやパケットが粗大であるのに対して,炭素濃度が増加するにつれてブロックやパケットのサイズが小さくなることが明らかとなった.また,Ms点が室温付近のマルテンサイト組織は,Fe-23Ni合金ではバタフライマルテンサイト,Fe-11Ni合金では薄板状マルテンサイトであり,Ni量減少に伴う炭素濃度増加つまり母相強度増加によってマルテンサイトの形状が変化するという重要な知見を得た. (2)電子線後方散乱回折法を用いた歪測定により,バタフライマルテンサイト周囲ではオーステナイトの塑性変形により,大きな方位回転が生じており,バタフライマルテンサイト生成に伴う変態ひずみは,組成緩和されていることが示唆される結果が得られている. (3)マルテンサイト生成に伴う塑性変形を母相が残存しない鉄鋼材料で測定するために、マルテンサイト方位から局所的なオーステナイト母相方位を逆計算する手法を開発した。マルテンサイト/オーステナイト間の方位関係を厳密に考慮することで3度以内の精度で母相オーステナイトのマッピングが可能であることを確認した.
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