研究課題
イットリア安定化正方晶ジルコニア(Y-TZP)は、その優れた強度と生体親和性により生体材料として臨床利用されている。しかし、湿潤環境下で長期間保持すると、低温劣化(LTD)と呼ばれる現象により単斜晶への相転移が発生して強度が大幅に低下するため、埋入期間が数十年の長期にわたるようなインプラント用の材料としては信頼性が低い。LTDの発生機構は現時点で未解明であるが、表面欠陥が影響しているとの説が有力であることから、本研究では、Y-TZPの持つ酸化物イオン伝導性を利用して直流電界下で分極処理を行うことにより、酸化物イオン欠陥濃度の異なるY-TZP表面を作成、そのLTD挙動を評価した。更にY-TZPに生体活性を付与する為、分極処理とSiクラスター含有NaOH水溶液による化学処理を併用した表面改質を試みた。分極後のY-TZPにおいては、正に帯電した面(酸化物イオン欠陥濃度大)、負に帯電した面(酸化物イオン欠陥濃度小)共に低温劣化が抑制される傾向が見られた。分極Y-TZPの、加熱下での脱分極挙動を検討した結果、Y-TZPセラミックス内では、双極子は結晶粒ごとに形成されており、各結晶粒表面の正・負面は別の結晶粒の逆極性の面と粒界を介する形で対向しているものと予想された。このように個々の結晶粒の正、負面の欠陥構造が対向する逆の面によって静電的に安定化されていることで、分極Y-TZPの低温劣化進行が抑制されたものと考えられた。一方、未分極、分極Y-TZPセラミックスをNaOH水溶液中で化学処理すると、正に帯電した面でより多くのシロキサン修飾が起こり、またこの面において、疑似体液中での骨類似アパタイト形成速度が最も速くなることが確認された。これは、酸化物イオン欠陥がシロキサン修飾の活性サイトとなり、かつ導入されたシロキサン基が骨類似アパタイトの核形成サイトとして機能した結果であると考えられた。
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