単結晶内部にフェムト秒レーザー光を集光照射すると、衝撃波に伴うひずみが局所領域で生じ、結晶構造に起因した欠陥領域が生じる。欠陥領域ではエネルギーポテンシャルが不安定な状態であるため、不純物が凝集しやすい状態にある。本研究では、人為的に形成した欠陥領域に導電性や発光性を有する不純物元素を注入することを目的とする。前年度は、サファイヤ内部にレーザーで誘起したクラック領域に、Cr^<3+>イオンが拡散していく様子を観察することができた。今年度は、注入したCr^<3+>の拡散係数が従来値に比べてどのような特徴を有するのか、などの拡散状態に関する詳細を調査すると共に、他のイオン拡散への適用も試みた。 Crイオンの場合、レーザー照射により形成したクラックが回復する現象(クラックヒーリング)が元素注入に重要な駆動力であることが分かった。サファイヤ単結晶のクラックヒーリングは、1300℃以上でのみ起こることを確認し、1300~1500℃にて単結晶をアニールすることで、表面からの拡散領域の変化を確認した。拡散距離に関しては、EPMAを用いてイオンの濃度分布変化を測定し、得られた濃度分布をフィックの法則から得られる拡散曲線にフィッティングし、それぞれの温度における拡散係数Dを求めた。そして、得られた拡散係数から最終的に活性化エネルギーを求めた。拡散係数に関しては、従来の報告値と比較して考察した結果、レーザーにより誘起した領域におけるCrの拡散は、表面拡散律速によるものであることを明確にした。
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