生体材料、電子材料など様々な分野で応用が期待されている水酸アパタイトの物理的、化学的性質は、その結晶構造、特にOHイオンと密接に関係している。本研究では中性子回折により、欠陥量が80%以上導入された水酸アパタイトの欠陥構造と、その酸素イオン伝導パスの解明を行うことを目標としている。近年深刻化しているエネルギー・環境問題を根本的に解決するために、光触媒を用いた水の分解反応が注目されている。本研究では我々が発見した光触媒Ba_5Ta_4O_<15>において、触媒活性と格子歪みの効果を明らかにする。そのために酸素原子に敏感な中性子回折により、ペロブスカイトにおける酸素八面体の歪みを明らかにすることを目的とする。本年度実施した内容は以下の通りである。 (1) 錯体重合法を用いて、精密分析に充分耐えられる均一な試料を合成した。中性子回折測定用の試料として、重水(D_2O)を用いて、アパタイト中のOHをODに置換した試料を作製した。光触媒であるBa_5Ta_4O_<15>の合成に関しても、組成が極めて均一な試料を合成できる錯体重合法を用いて合成を行った。 (2) ラマン散乱およびNMR測定;hydroxyapatiteの脱水反応により生成されるoxy-hydroxyapatiteのような欠陥構造に対しては、回折法に比べて短いコヒーレント長さを有するラマン散乱が構造変化を決定するに当たり威力を発揮すると期待される。回折法では同一のサイトに存在する異種原子の存在比を求めるのは困難であるため、D置換水酸アパタイトの重水素置換率はラマン散乱により調べた。更に水酸アパタイトに対しては、ラマン散乱法よりも局所的な構造に敏感な高分解能固体NMR装置を用いて、水素およびリン原子近傍の欠陥構造の測定も行った。
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