高導電性を有する柔軟かつ伸縮自在な材料は、伸縮性のある電子回路に利用できるので非常に注目されている。カーボンナノチューブ(CNT)は大きなアスペクト比によりナノスケールの直径でチューブの軸(長さ)方向に高い導電性を有するため、理想的な導電性フィラーと考えられている。ポリマー/CNTナノコンポジット系の極めて低い閾値(CNT添加量)は従来の導電性フィラー高濃度充填系材料と同等の電気伝導度を実現するだけでなく、マトリクスポリマー自体の力学性能、透明性、成形性等の性質をそのまま維持させることができる。伸縮性を付与するためにマトリクスポリマーとしてはエラストマーを選び、かつエラストマーの伸縮性は極少量のフィラー添加でしか維持されないので、伸縮自在な導電性ナノコンポジット創製において用いる分散用フィラーとしてはCNTが最良だと考えられる。 H21年度においては、優れた伸縮性を有し、かつ高導電性のナノコンポジット材料の開発を目指し、熱可塑性エラストマーである、sEBsと多層CNT(MWCNT)とを高せん断成形加工装置(HSE3000mini)を用いて溶融混練した。特に、この実験では高せん断装置のスクリュー回転数がSEBS中のCNT分散に与える効果を検討した。さらには、CNT添加量を変えて作製したナノコンポジットの導電性-伸長性-柔軟性の相関を検討した。 この結果、SEBSマトリクス中の田CNTは、1000rpmのスクリュー回転数で高せん断混練した場合には均一に分散していたが、300rpm以下の低せん断混練の条件ではMWCNTが凝集して大きな塊になっていることが分かった。均一分散しているMWCNTは添加量が2.5wt%を超えるとネットワークを形成し、さらに添加すると絡み合いが増すことが分かった。しかも、マトリクスポリマーとCM表面との界面間で強い接着性があることが分かった。このようにしてMWCNTの添加量2.5wt%以上のところで、伸長性(600%以上に伸びる)があり、柔らかい(200%ひずみからの回復ひずみが60%以下)、かつ導電性のナノコンポジットを創製することができた。またWMCNTの添加量が15wt%のときは、50%までの一軸伸長下でも、その電気伝導度が変わらないという優れた性質を示した。50%以上伸長させてしまうとMWCNTのネットワークが断裂して。まうため電気伝導度も柔軟性も低下してしまうことが分かった。 加えて、この系におけるMWCNTの優れた分散性がマトリクスポリマーである共重合体の相分離挙動にも大きな影響をもたらすことが分かった。即ち、このナノコンポジット系ではSEBSの局所的な相分離が抑えられ、WMCNTのネットワークが相分離したグレインの形成を阻止するため、SEBS単体よりも低い温度で秩序-無秩序転移が観測された。
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