高導電性を有する柔軟かつ伸縮自在な材料は、伸縮性のある電子回路に利用できるので非常に注目されている。カーボンナノチューブ(CNT)は大きなアスペクト比によりチューブの軸(長さ)方向に高い導電性を有するため、理想的な導電性フィラーと考えられている.ポリマー/CNTナノコンポジット系の極めて低い閾値(CNT添加量)は従来の導電性フィラー高濃度充填系材料と同等の電気伝導度を実現するだけでなく、マトリクスポリマー自体の力学性能等をそのまま維持させることができる。伸縮性を付与するためにマトリクスポリマーとしてエラストマーを選び、分散用フィラーとして多層CNT(MWNT)を選んだ。 H22年度においては以下の2つの研究を展開した。1)まず、H21年度に高せん断成形加工法で開発した伸縮性と弾性を持つ高導電エラストマーナノコンポジット材料をさらに改良するため表面coating方法で、伸長性(600%以上に伸びる)に富み、かつ柔らかい(200%ひずみからの回復ひずみが60%以下)導電性ナノコンポジットを創製することに成功した。2)MWNTとイオン液体(IL)の高い親和性を利用し、ILを用いてMWNTの表面を改質した。ILとしてヒドロキシ基を2つ含むイミダゾール系のものを選び、MWNTにこのILを加えて機械的に混練したところ、ゲル化が起こり、MWNT同士の凝集が解けて、剥離分散した。ゲル化により、MWNTが親水性となって分散性が向上したと考えられる。しかしながら、この二元系組成物(IL-MWNT)を色素増感型太陽電池の対極に用いても、光電変換効率は白金を対極にした場合に及ばなかった.そこで、導電性をさらに向上させるため、このIL-MWNTと、チオフェン骨格を持ちスルホン酸塩と対になって親水性を示す導電性高分子、ポリ(3.4-エチレンジオキシチオフェン):ポリスチレンスルホニウム(PEDOT:PSS)と混合し。三元系導電性材料(IL-MWNT/PEDOT:PSS)を得た。このIL-MWNT/PEDOT:PSSの構造を調べたところ、表面にIL分子がついたMWNTが核(コア)となり、PEDOT:PSSが殻(シェル)となっているコア・シェル型構造が形成されていることが分かった。このようなコア・シェル型構造のIL-MWNT/PEDOT:PSSを対極に用いて色素増感型太腸電池を作製し、その特性を測定したところ、白金電極とほぼ同等の特性が得られた。今回開発した三元系材料は簡便なプロセスで作製できるので、白金に代替することができれば、省資源であるだけでなく、色素増感型太陽電池の低コスト化、大面積化にも貢献できると期待される.
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