研究概要 |
融点がそれほど高くないAl中に50μm程度のTiNi形状記憶合金粉末を分散させたインゴットを作製し,ハンマーによる鍛造や圧延によって強加工を施した.本研究では当初,Al中に形状記憶合金微粒子が分散することを期待していたが,予想に反して全く別のナノ粒子が高い密度で析出した.元々TiNi粉末中に約50at.%も含まれていたTiはこのナノ析出粒子中にはほとんど含まれておらず,代わりにハンマーや圧延のローラーからFeが混入していることが明らかになった.走査電子顕微鏡ならびに透過電子顕微鏡観察により,このナノ析出粒子がAl_9FeNiであることを突き止めた.この相はAl-Fe-Ni三元系状態図によると,750℃でも安定に存在し得る金属間化合物相である.また,その組織はAlとAl_9FeNi相からなる共晶組織に極めて類似しており,強加工の最中に何らかの原因で局所的に温度が上昇し溶解したと考えられる. 従来,結晶粒微細化に次いでアルミニウム合金の高強度化に用いられる手法は時効析出による強化法である.しかしながら,時効熱処理によって生じるナノ析出相は試料温度が時効温度に近づくと粗大化あるいは分解するため,アルミニウム合金の機械的特性は耐熱性に限界がある.従って,本研究で用いるソリッドアトマイズ法により作製されるナノ粒子分散Al材は従来のアルミニウム合金よりも耐熱クリープ特性が向上すると期待される. 今後,ナノ粒子が形成されたメカニズムを解明し,本研究で見出した現象がAlとTiNi粉末に固有か,あるいは,他の合金系へも応用が可能であるかを見極める.
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