研究概要 |
鋼のロールで圧延した厚さ2mmのAl板材にNi,Fe,Cuの各粉末を混合したインゴットを作製し,室温で鋼のハンマーにより鍛造した.ここで,Ni,Fe,CuはAlとの混合エンタルピーがそれぞれ-22kJ/mol,-11kJ/mol,-1kJ/molである.Al中にNi粉末を混合したインゴットをハンマーで鍛造する,昨年度TiNi粉末をAl中に混合したインゴットと同様にナノサイズのAl_9FeNi相が析出した、昨年度の段階ではAl_9FeNiナノ相の析出が,TiNi粉末とAl母材の混合エンタルピーによるものか,あるいは,TiNiが加工によりアモルファス化し易いことによるものか分からなかったが,本実験により,前者がナノ相析出の原因であることが明らかになった. 次に,Al中にFe粉末を混合したインゴットを鍛造するとFe-Al金属間化合物ナノ相が析出し,これはFe_4Al_<13>相,Fe_2Al_5相,FeAl_2相のいずれかと考えられる.これらの金属間化合物相の融点はいずれも1100℃以上の高温であり,Al合金の耐熱高強度化が期待される.走査電子顕微鏡でこの試料の断面を観察すると,このナノ相は球状あるいはラメラ状の形状をしていた.一部では,Fe-Al金属間化合物相が析出過程で機械的に粉砕されて生じたナノ介在物も観察されたことから,Al中にFe粉末を混合したインゴットを鍛造する場合は,混合エンタルピーにより局所溶解が生じてナノ相が析出する場合と,その析出過程で中間相が機械的に粉砕されてナノ介在物となる場合の両方が混在していた. 最後に,Al中にCu粉末を混合したインゴットを作製したところ,この段階ですでにAlとCuが金属間化合物相を生成していた.以上の結果から,熱処理を用いない単純な塑性加工によるナノ相析出は,混合エンタルピーが負で,かつ,その絶対値が大きいほど,有効である傾向が明らかになった.
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