研究概要 |
平成21年度は侵入型固溶元素を含まないFe-23mass% Ni合金を用い,鉄合金ラスマルテンサイト組織内に存在するサブブロック粒界のみおよびブロック粒界のみを含む幅10μmのマイクロサイズ試験片を収束イオンビーム加工により作製した.また標準試料としてフェライト結晶粒内から単結晶フェライトのマイクロサイズ試験片も作製した.作製した試験片の機械的特性をマイクロサイズ機械試験により直接評価した.得られた結果は以下の通りである.(1) サブブロック粒界のみを含むマイクロサイズ試験片の強度はフェライト単結晶の強度よりも高い値を示した.しかしこの強度上昇は主に転位密度の増加に起因しており,サブブロック粒界がラスマルテンサイトの全体の強度におよぼす影響は非常に小さいことが明らかとなった.(2) ブロック粒界を含んでいる場合,マイクロサイズ試験片の強度は著しく上昇した.またブロック粒界を含むマイクロサイズ試験片の場合のみ,荷重-変位曲線に荷重降下とセレーションが確認された.これはブロック粒界において転位が堆積したことに起因していると考えられる.(3) サブブロック粒界のみを含むマイクロサイズ試験片では変形後に局所化したすべりバンドが観察されたのに対し,ブロック粒界を含むマイクロサイズ試験片ではすべりが局所化しておらず,明瞭なすべりバンドを観察することができなかった.このことはブロック粒界がすべり運度に対して強い障害として働いているのに対し,サブブロック粒界はすべり運動に対して障害としてほとんど働いていないということを示している.以上の結果よりラスマルテンサイトの有効結晶粒界はブロック粒界であると結論付けることができた.
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