研究概要 |
マグネシウムは、結晶粒微細化にともない破壊靭性値が向上し、ボイド形成に起因した延性ディンプル破壊を示すが、変形組織観察をもとにした詳細な研究報告例がない。本研究では、微細結晶粒マグネシウム合金の破壊靭性試験における変形機構を明らかにすることを最終目的とし、本年度は、以下の知見が得られた。 三種類のマグネシウム合金(Mg-Zn/Ca/Yb)を溶製し、温間押出加工により試料を作製した。透過型電子顕微鏡:TEMを用いた微細組織観察により、三種類の押出材の平均結晶粒径が約2~3μmで、平均サイズ約100nmの第二相粒子が分散することを確認した。添加元素量と押出温度を調整することで、結晶粒径と分散粒子形態を制御できることが分かった。また、微細組織観察とX線回折測定から、第二相粒子はMg2X(X=Zn,Ca,Yb)からなる金属間化合物であった。ナノインデンテーション法により、母相と第二相粒子の硬さ・剛性率を測定した結果、第二相粒子のこれらの値は、母相と比べて約2~3倍程度大きいことが分かった。 変形組織観察用試料は、微細・精密加工を得意とする集積イオンビーム法:FIBを用いて作製した。Mg-Zn合金変形試料に対し、TEM観察に最適なFIB加工条件を明らかにした。同試料の変形組織観察の結果、変形初期段階のき裂先端部では、双晶が存在せず、亜結晶組織が形成することを確認した。微細結晶粒マグネシウム合金の靭性改善の主な要因は、変形初期段階で、微小破壊サイトやき裂の進展経路となる双晶の発生がなく、き裂先端部が十分に鈍化することが可能であるため、と考えられる。双晶発生の抑制は、結晶粒微細化効果、すなわち、粒界コンパティビリティ応力の作用による非底面転位と粒界すべり活動により、マグネシウムの乏しいすべり系を補完することと推測される。一方で、変形中期・後期のディンプル近傍部では、ボイド形成時に高応力場が作用するため、ナノサイズからなる双晶が観察された。また、これらの双晶は、き裂進展と関係があることが明らかになった。
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