研究概要 |
近年コールドスプレー法は圧縮気体により,数十μmオーダーの金属微粒子を亜音速から超音速レベルにまで加速し,固相状態のまま基材に衝突・堆積させることにより皮膜や厚いスプレーフォーミングを形成させる技術である.コールドスプレー法の産業分野での実用化には科学的な根拠に基づく皮膜・基材間の密着強度の保証が必要不可欠である.過去の研究により粒子・基材間の接触面が密着強度を担保していると予想される. オージェ電子分光分析(AES)は、表面数nm層に存在する元素を分析することが可能な計測方法である.そこで,本研究ではAES内に設置した高真空環境中引張試験装置で密着強度試験を行い,試験後の破面をAES分析に供し,粒子・基材間の真の接触面積を実測し,粒子変形挙動FEM解析結果を併用することで,密着強度予測モデル確立を目標とする. 本年度は引張り試験用試験片の作製を行った.アルミニウム基材上にアルミニウムをコールドスプレーにて施工し,この供試体から機械加工にて試験片を作製した.このとき,一部の試験片では機械加工の際に試験片端部での破断が生じた.試験片端部には応力集中部が存在し,破断はここを起点に破断が起きた.このような応力集中部は試験片の両側に二ヶ所存在するが,いずれの試験片でも破断もコールドスプレー皮膜側で発生しており,コールドスプレー皮膜内部は基材に比べて機械的強度が劣ることが確認された.破面のSEM観察結果より,破断はコールドスプレー皮膜内部の粒子・粒子界面で生じていることが明らかとなった.粒子・粒子界面では延性破壊特有のディンプルは観察されなかったことから,粒子同士ほぼ無変形で破断したと考えられる.これらの結果から粒子・粒子間および粒子・基材間のローカルな密着強度が皮膜全体の強度を支配していることが予想される.次年度以降は密着強度試験を行い,定量的に密着強度を評価していく.
|