研究概要 |
本研究では,高速回転するツールを鋼板の上に重ね合わせたアルミニウム板に挿入し,摩擦熱による入熱効果と撹拌効果によって固相接合を行う摩擦撹拌スポット接合を利用して,アルミニウムと鋼の異種金属重ね合わせ接合を試みた.さらに,接合条件の一つであるツール保持時間を変化させることによって,界面に対する入熱量を制御し,接合強度ならびに接合界面に生成する金属間化合物層の成長挙動について調査した. ツール保持時間を変化させた摩擦撹拌スポット接合材の十字引張試験を行った結果,プローブ先端のアルミニウムが鋼表面に残留する,いわゆるプラグ破断の破断様式を呈した. 接合材断面の結晶粒を光学顕微鏡を用いて観察すると,接合界面近傍の鋼の結晶粒形状は接合前と変化はなかったのに対し,アルミニウムの結晶粒は微細化されていた.これは,接合界面近傍のアルミニウムは,高速回転ツールによって撹拌されていることを示している.走査型電子顕微鏡を用いてアルミニウム/鋼接合界面を観察したところ、アルミニウムならびに鋼とは異なるコントラストの相が層状に生成していた.組成分析の結果,アルミニウム/鋼接合界面に生成した金属間化合物層は2相から形成され,アルミニウム側にAl_<13>Fe_4相,鋼側にAl_5Fe_2相の層が形成されていることが明らかになった. 保持時間を変化させて接合を行っても,接合界面にはAl_<13>Fe_4層とAl_5Fe_2層から成る金属間化合物層の生成が明瞭に観察された.これらの金属間化合物層の厚さは,保持時間の平方根に比例して厚くなった.これらの層の放物線係数(成長速度)は,静的な拡散実験によって報告されている係数よりも大きかった.これにより,摩擦撹拌スポット接合界面における金属間化合物の成長には,摩擦による入熱だけでなく高速回転ツールによって生じたアルミニウムの塑性変形による寄与も大きいことが明らかになった.
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