本研究計画では、無機材料薄膜の合成原料として広く使用される有機金属化合物を研究の対象とし、薄膜合成プロセスにおける未反応原料や副生成物の回収・再生システムの構築を目指す。それらの技術を通じた原料リサイクルシステムの確立は、薄膜合成プロセスの原料利用効率向上へと最終的に大きく貢献するものと判断される。本研究では、原料回収・再生の具体的な技術的指針として、有機化合物抽出・分離の性能に定評のある超臨界二酸化炭素(scCO_2)を利用した化合物回収技術の構築を提案する。 平成21年度の研究において、有機金属化合物をscCO_2により溶解抽出→分離するための回収システムを設計試作した。回収システムは加圧されたscCO_2流体が流通可能なフロー式の高圧反応装置から成り、CO_2流体供給系、抽出系および分離系から構成される。供給系において加圧昇温されたscCO_2流体をシステム内に流通させ、抽出系内に仕込んだ有機金属化合物を溶解抽出、その後に分離系で圧力解放することにより抽出化合物とCO_2流体の分離回収を行った。今回は研究対象にTi基有機金属化合物(固体)を選択し、酸化物セラミックスTiO_2薄膜の原料と成り得るいくつかの化合物、すなわち数種類の金属アルコキシドやβ-ジケトン錯体などについて、前述の回収システムを用いて溶解抽出実験を実施し、有機金属化合物の分子構造および流体の温度・圧力などのパラメーターの調整により効率的な物質回収を実施するための条件制御を試みた。その結果として、それら化合物のscCO_2に対する飽和溶解度曲線(溶解度vs.温度・圧力)を実際に作成することに成功した。
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