電気・光学物性は、結晶構造に敏感であり、この制御はきわめて重要である。今回我々は、チオラート錯体を用いたI-III-VI族ナノ粒子合成において、結晶多形が存在することを見いだした。I-III-VI族は、カルコパイライト構造をとることが知られているが、今回、ウルツ鉱型CuInS_2および斜方晶型AgInS_2ナノ粒子の合成を確認した。共存配位子や金属原料をかえて、ナノ粒子の結晶構造にどのような影響を与えるか検討したところ。結晶構造は共存配位子および金属塩により影響を受けることを見いだした。例えば、オレイルアミンやジオクチルアミンなどの強い配位子を添加した場合、ナノ粒子の結晶構造は非カルコパイライト型となった。また、金属塩化物を原料とした場合も同様に非カルコパイライト型に変化した。これらの結果から、非カルコパイライト型ナノ粒子が出現する条件では、アンミン錯体が共存していると推察される。非カルコパイライト型構造は、準安定構造であると考えられるので、結晶の成長速度が速い場合に出現しやすく、アミン錯体が共存するという過程と矛盾する。寺部らは、Ag_2SやCu_2Sがイオン超伝導体であると報告している。また、Cu_2SおよびAg_2Sは、六方晶系および斜方晶系に属する。以上の事実から、反応初期段階にモノサルファイドが発生し、カチオン交換により3元系ナノ粒子に転化され、最終的な構造は初期のモノサルファイドの構造に由来すると考えた。この過程を確かめるべく構造の異なるCu_<2-x>Sナノ粒子を合成し、カチオンエクスチェンジを行った。この結果、モノサルファイドの構造が最終的なI-III-VI族ナノ粒子の構造に影響を与えることを確認した。これは、多元系ナノ粒子の結晶構造制御法や新奇な構造を持つナノ粒子合成法の開発につながると考えられる。
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