研究概要 |
近年、鉄鉱石の質の低下に伴い、焼結鉱の強度及び耐還元粉化性が低下することが問題になっている。この原因として、鉄鉱石の成分変化により、焼結鉱の重要な結合層である針状カルシウムフェライト(Caフェライト)の結晶化条件が変化したことが考えられる。しかしながら、針状Caフェライトは、天然鉱物には存在せず、その構造、物性には不明な点が多い。本研究は、針状CaフェライトおよびCaフェライトと結晶学的に良く似た天然鉱物から得た物質科学的知見を焼結鉱の製造方法の最適化に応用することが目的である。 昨年度は、ヘマタイトとCaフェライト相の結晶方位関係を明らかにするため、焼結鉱の作製過程を擬似再現した結晶化実験を行った。Caフェライト組成に調整した粉末の中にヘマタイト結晶を混ぜ、サンプルAは1200℃で24時間加熱後、サンプルBは1250℃で24時間加熱後、それぞれ室温で急冷しサンプルを得た。サンプルAの走査型電子顕微鏡(SEM)による観察結果から、ヘマタイトの周辺部は溶融し針状Caフェライトの中に取り込まれていることが分かった。電子後方散乱回折像(EBSP)法による結晶方位解析の結果、Caフェライト相に取り込まれているヘマタイト相の結晶方位がすべて同じであり、両者の間に明確な結晶方位関係が成り立っていることが明らかになった。一方、サンプルBの主な生成鉱物相は、ヘマタイト,柱状Caフェライト,スピネルであった。EBSP分析の結果からは、Caフェライト単一相中に取り込まれていたスピネルはすべて同じ方位であることが明らかになった。これらの結果から、焼結鉱中の主要構成鉱物は温度、冷却過程の違いにより変化すること、さらにCaフェライト相の組成変化により、これまで報告されているよりも低温で、柱状Caフェライトが晶出することが明らかになった。また、すべての主要構成鉱物は八面体構造を基本骨格としたものであり、epitaxialな関係を保持して結晶化した可能性がある。
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