高炉の原料として使用される焼結鉱の品質は、高炉操業の安定性や高炉の炉内通気性及び還元性等に大きな影響を与える。特に、焼結鉱の強度、被還元性及び耐還元粉化性の低下は、焼結鉱製造工程においては、歩留や生産性が低下し、また、高炉操業においては操業の安定性を阻害する要因となる。近年、鉄鉱石の質が低下に伴い、焼結鉱中の酸化アルミニウム成分が増加し、その影響により焼結鉱の強度及び耐還元粉化性が低下することが問題になっている。この原因として、鉄鉱石の成分変化により、焼結鉱の重要な結合層である針状カルシウムフェライトの結晶化条件が変化したことが考えられる。しかしながら、これまで、針状カルシウムフェライトの結晶学的特徴は、理解されていない部分が多く、品質の悪い鉄鉱石資源の有効利用及び還元性の良好な焼結鉱を開発するためには、多成分針状カルシウムフェライト相(SFCA)の結晶化条件や物理化学的基礎知識の整理が不可欠である。そこで、本研究では、実際に高炉で使用されている焼結鉱を用い、焼結鉱の強度及び還元性に影響を及ぼしているSFCAと共存鉱物の結晶方位関係を電子線後方散乱回折(EBSD)法により明らかにした。SFCAは、ヘマタイトおよびマグネタイトと共存している。ヘマタイトと共存するSFCAは、ヘマタイトの巨晶を埋めるように存在している。EBSD分析の結果、SFCAとヘマタイト間に明確な方位関係は、観察されなかった。一方、マグネタイトと共存するSFCAは、マグネタイトからエピタキティックに成長している。EBSD分析の結果、SFCAの(-1-11)とマグネタイト(101)、SFCAの(-1-10)とマグネタイトの(0-10)が一致し、明確な方位関係が観察された。これは、SFCAのスピネル面とマグネタイトのスピネル面が平行であることを示している。
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